那覇地方裁判所 昭和50年(わ)227号 判決 1975年9月26日
主文
被告人三名をそれぞれ懲役一〇月に処する。
被告人三名に対し、この裁判確定の日から一年間それぞれの刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人澤岻は沖縄県農林水産部林務課造林係員として勤務しているもの、被告人大城は同県国頭郡国頭村経済課林務係員として勤務していたもの、被告人宮城は造林業を営んでいるものであるが、被告人ら三名は共謀のうえ、被告人宮城において、昭和四八年度に同県国頭郡国頭村字与那二七い林班内一六・一一ヘクタールの山林につき松の造林事業を行つた事実がないのに、右造林事業を行つたものと偽つて間接補助金である昭和四八年度造林事業補助金の交付を受けようと企て、昭和四九年三月八日、国頭村長を通じて沖縄県知事宛、被告人宮城が右の山林につき造林事業を完了したので補助金を交付されたい旨虚偽の造林事業補助金交付申請書を提出し、同月三〇日同県知事をして右申請に係る造林事業補助金の交付決定をさせ、これに基づいて同年五月一五日、同県国頭郡字辺土名一二一番地国頭村役場において、同県出納吏員から、国頭村収入役知花正善を通じて、造林事業補助金名下に現金二一四万一四八円の交付を受け、もつて不正の手段により間接補助金の交付を受けたものである。
(証拠の標目)(省略)
(法令の適用)
被告人三名の判示所為はいずれも刑法六〇条、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律二九条一項に該当するところ、被告人三名につき所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人三名をそれぞれ懲役一〇月に処し、被告人三名に対し、情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から一年間それぞれその刑の執行を猶予することとする。
(弁護人の主張について)
被告人らの本件所為は、その社会的背景、動機、目的、態様およびその前後の状況等からすれば、実質的違法性(可罰的違法性)がないので無罪であるというのである。
しかしながら、本件各証拠を綜合して認定できるすべての事情を基礎にして検討して見るに、本件のそもそもの発端は、昭和四八年度における間接補助金である造林事業費について、当初に計画したとおりの予算執行ができず、未消化分が生じたため、被告人らなりに、これをいかにして消化した方が将来の造林事業発展のために得策であるかという観点から行われたものであるところ、被告人らにおいては、単に不当な利得を得ようという意思ではなく、次年度においてそれに見合う造林をしてその埋め合わせをするという意図があつたことが伺えるものの、これは補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律の立法趣旨に鑑み、正に同法の禁止している脱法行為であると解すべきものであつて、不適正な予算執行であると云わざるを得ない。しかも本件において交付を受けた補助金がかなり多額のものであること、その他諸般の事情を考え合せて見ても、被告人らの本件所為が実質的違法性を欠くものであるとは認められない。
従つて弁護人の右の主張は採用できない。
よつて、主文のとおり判決する。